mitorizを率いる木名瀬博社長の思いに迫るインタビュー連載2回目
シャイな少年がアサヒビールに入社し、SBFを立ち上げた経緯を聞いた第1回に続き、今回は、木名瀬さんがなぜ“主婦層の力”にこだわるのか、その理由に迫ります。
第1回のインタビューで、木名瀬さんは「SBFのキャストには、雇用創出の4つのセグメントのなかでも主婦がもっとも適している」とおっしゃいました。その理由をもう少し教えてください。
まず、SBFのお仕事であるフィールドマーケティングの“フィールド”についてですが、私たちは「消費者が商品もしくはサービスと接するシーン」と定義づけています。
そう考えたときに、誰が消費者のメインかといえば、主婦の方々なんです。
旦那さんのビールも、家族のために作る食事の材料も、掃除道具も、彼女たちが買います。
ということは、彼女たちは、どんな商品やサービスが求められるのかという消費者の目線をもっている。だったら彼女たちが仕事をするのがいちばんいいんじゃないか、ということです。
また、彼女たちは地域に密着して暮らしていますから、どんな行事があるのか、どんな人たちが住んでいるのか、というエリアの温度感をよく知っています。
そして、コミュニケーション能力も非常に高い。
例えば会社であれば、多少軋轢があっても同じ目的をもっていることでがんばれますが、彼女たちは、地域のお母さん同士という何も共通する目的を持たない関係をうまく保つことができる。
言ってみれば、“良い関係を保つことが目的のコミュニケーション”ですよね。
そうです。
利害が一致しないなかで仲良くし続ける能力って、ものすごいことだと思います。
そして、たいていの人は何かしら働いた経験がありますから、ある程度のビジネスマナーもあります。
ネックといえば、働ける時間が流動的なことと、人によっては扶養家族として認められる103万円以上は働けないこと、動けるエリアが限定されていることくらいです。
逆に言えば、年齢に縛られず、時間に束縛されない形で、エリアも無理せず動ける範囲で、それぞれがやりたいボリュームを選べる仕事をこちらが用意すれば、彼女たちは能力を発揮してくれるダイヤモンドの原石なんです。 僕が思うに、彼女たちは生活に困って仕事をしたいわけじゃないと思うんです。
目的はお金じゃない?
いえ、もちろんお金を稼ぐことも大切なのですが、それが第一の人は、仕事を選ばないと思うんです。
彼女たちの場合は、労働への対価が欲しいというよりも、やりがいや誇りをもてる仕事をしたいという気持ちが強く、社会にとっての自分とはなんなんだろう? ということを常に考えている気がします。
「誰々の奥さん」や「誰々ちゃんのママ」といった三人称ではなく、 自分の名前で、一人称で社会に役立ちたいと思っている。カルチャースクールで習い事をしても、友だちと食事しても、どこか物足りないのは、社会への参加意識の高さの表れであり、彼女たちが優秀な証拠だと思うんです。
そういう人たちを労働力として活用できるビジネスモデルを作れば、彼女たちは働きがいややりがいといった高い意識をもって、報酬の何倍もの働きを見せてくれるだろうと思いましたし、実際にそれを確信しています。
主婦、ということ以前に、女性がフィールドマーケティングに向いているということはありますか?
あると思います。
日々の購入活動が男性よりもきめ細やかですよね。直線的、階段的により性能の高いものを探し続ける男性に対し、女性は「自分が使うとしたら」ということを前提に商品やサービスを何カ所かチェックして、いろいろな商品を見比べて、いちばんいいと思ったところに戻って……というように、サークル型の行動パターンをもっています。
女性のほうが、きめ細やかな視点でリサーチや売り場作りができると思います。
また、女性のほうが、細かい指示をすればするほど、それにひとつひとつ確実に応えてくれる。でも、男性の場合は、「この予算でこういう結果を出して!」というお題のなかで工夫することにやりがいを感じる性質をもっているので、いちいち細かいことを言われるのを嫌います。そういう面でも、女性はこの仕事に向いていると思います。
ちなみに、木名瀬さんはアサヒビール時代、 どんなときにマーケティングスタッフ(MS)さんを優秀だと思いましたか?
彼女たちのクビを切れと言われたときに、彼女たちの能力を数値化して経営陣に提出したんですね。
そのときに、全国で優秀な人を20人くらい推薦してもらって、彼女たちの行く現場に同行したんですが、素晴らしかったですね。
酒屋の方とツーカーで喋って商談をまとめてくれますし、商品知識や陳列の仕方も営業マンが太刀打ちできないレベルでした。僕なんかよりもずっと優秀で……。 あのときにMSさんから学んだことは、現在のSBFのマーケティングノウハウに大きく生かされています。
新人時代に配属された長野支店では、酒屋さんのお子さんが入学するときには気を利かせてプレゼントを渡しておいてくれたり、お祭りがあるときは率先して酒屋さんを手伝ってくれたり。単にお金を稼ぐためのお仕事ではなく、ライフワークのように働いてくれていました。
その後の横浜支社では、「どんどん注文をとってください」とMSさんにお願いしたら、それまでやっていなかったらしく、「そんなことしたくない」と総スカンを食らってしまったんです。 でも、僕は長野支店でのやり方を貫きました。
何度も話をして、一緒に酒屋さんを回って、週に何度も昼食を一緒にとるうちに、いつしかMSさんたちは変わってくれていました。
そうそう、社内的な売り上げの競争があるんですけど、僕を一位にするために一致団結してがんばってくれるようにまでなったんですよ。いただいた賞金で、みんなとステーキを食べに行ったときは嬉しかったですねえ(笑)。今でも当時のMSさんとは年賀状のやりとりを続けています。
なぜ、厚木支店のMSさんは、最初はいやがっていたのに、がんばってくれるようになったと思いますか?
たぶん、僕のことを「この人がここまで本気でやるなら、やるしかない」と思ってくれたのかな、と思ってます(笑)。
EDITOR’S NOTE |
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スタッフと本気でぶつかる木名瀬さんの姿勢は、SBFでも変わりません。 最終回となる第3回では、木名瀬さんがSBFのキャストのみなさんと、どんな風に“本気で”コミュニケーションをとっているかに迫ります。 |
聞き手:須永貴子/フリーライター